ハマリ役! 東山紀之の英国王

12年8月31日 [08:00]

東山紀之(45)の主演舞台「英国王のスピーチ」(世田谷パブリックシアター)を見てきた。個人的に今年のキャスティング大賞を贈りたいハマリ役だった。端正な立ち姿に加え、試行錯誤の中で吃音(きつおん)症と戦ってきた英国王のくそまじめさと、自称「不器用」で人の何倍も努力を積んできた東山のタレント人生が完全にハモっていて、ハッピーエンドが胸に染みた。

 幼少期から吃音症に悩まされ、兄エドワード8世のまさかの退位により国王となったジョージ6世(←エリザベス女王のお父さんです)が、型破りな言語療法士とともに自らを克服し、国民に愛される王になるまでを描く。

 冒頭から、悪夢のスピーチシーン。国王の名代としてステージ中央に祭り上げられ、一斉に注目され、原稿を持つ手を奮わせて小さくなっている。「み、みみみ、み、皆さん、きょ、きょきょきょ今日は...」。聴衆(国民)役を担わされている客席は、ここから主人公の苦悩と成長を見守っていくことになる。

 客席の中には吃音スピーチをくすくす笑っている親子連れもいた。当事者とそうでない人との温度差がリアルに感じられてへこんだけれど、かといって腫れ物に触るような気遣いはこの作品にはない。実際、笑いがあふれているのも事実である。くそまじめな人ほど端から見れば面白いもので、浮世離れしたヘンな空気を東山がロイヤル級の勘の良さで演じている。変化球でスパルタ治療に当たる言語聴覚士ライオネル(近藤芳正)とのやりとりは、ズレ漫才のようでもある。

 タブーや王室までもシレッと笑いの対象にしてしまう英国気質が凝縮されている作品だけに、皮肉屋のチャーチル首相が「(吃音で)フィッシュ&チップスもまともに注文できない男」などと陰口を言いまくっているのも面白い。タブーを笑うというより、そんなことを言うキャラクターのえげつなさを笑う英国流。キツいけれどみんな国王が大好きで、それぞれのやり方であれこれ世話を焼く距離感がエレガントだ。

 映画は昨年のアカデミー賞で作品、主演俳優、監督、脚本の主要4冠を獲得している。東日本大震災の余震が続いている時期に見たのだが、これからクライマックスの開戦スピーチというところで震度4の揺れ。あんな時期に劇場が超満員という作品パワーもすごいが、上映中止を恐れて誰ひとり席を立たず、何もなかったようにスクリーンを見ていたのもすごい。それほど面白かった。
 舞台版は映画とは異なる展開も多いのだが、王も貧乏講師も、みんな身動きとれない人生をガッツで生きているのだという魅力は同じ。不格好でもファイティングポーズをとっていたいと、劇場からの帰り道がすがすがしく感じられた。

 東山自身、ダンサーとして踊る体力が衰えないように、デビュー以来ストイックなトレーニングと食事制限を続けてきたまじめな人である。過去のニッカンのインタビュー記事を読むと、意外にも「不器用」で、当初はダンスもヘタだったのだという。「右足と左足が同時に出るクチ。ひとつのことをやるのに人の2倍かかる。だから『継続は力』というか、ずっとレッスンを続けてこられたんです」。そんな彼が45歳になった今もこうして輝いている姿に、不器用なジョージ6世が自力でつかんだ栄光が重なる。東山をキャスティングした人のセンスの冴えに、称賛を込めて笑ってしまう。

 人に服を着させられることに慣れ切ったロイヤルの手足の出し方、思わず左手でノブを回す動作など、細かい演出の説得力も地味に効く。演出も脚本も適材適所のキャスティングも、この作品への愛情がにじむまじめさ。文字通り、ジョージ6世みたいな作品です。

 出演はほかに安田成美、ラサール石井ら。9月9日まで、東京・世田谷パブリックシアターで。同14日から大阪公演。

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