昨今、何かにつけて「王子」という愛称を耳にすることが多くなった。芸能界、スポーツ界、文壇、飲食業界……もしかするとあなたの職場でも、ちょっと爽やかで見た目のいい男性はその特徴を頭につけて「○○王子」などと呼ばれてはいないだろうか。

 日本で最も「王子」が多く集まる場所、それがジャニーズ事務所だ。特に容姿端麗、かつストイックに芸事を追究するタイプの“正統派”は伝統的に王子と呼ばれ、さらにその中でも、他のタレントのファンたち含め誰もが一目置く王子の中の王子が、KinKi Kidsの堂本光一である。

 CDデビュー前の十代の頃から、堂本剛と共に“関西弁のプリンス”としてテレビやCM界を席巻しブームを巻き起こした。現在はテレビのレギュラーこそ週に1本と落ち着いているが、コンサートを開けば当たり前のように東阪ドームが満杯になる。

 浮き沈みの激しい芸能界、ジャニーズとて例外ではない。今やドーム会場でコンサートを行ったことのあるアーティストなら大勢いるが、1998年から2016年まで実に19年もの間、1年も空けることなく東阪のドームでコンサートを成功させているアーティストはKinKi Kids以外にいない。しかもメンバーはたった2人だ。

 また光一個人としても、日本が誇る大劇場・帝国劇場(約1900人収容)で00年から毎年主演ミュージカルを上演し、通算1300回を超える公演の全チケットを即日完売していることはあまりに有名。その記録は現在も更新中で、「日本で最もチケットが取れないミュージカル」と言われている。この人気の根強さの秘密は一体どこにあるのだろう。

 

 堂本光一の人気の理由を考えるなら、まず、クリエイティブなところが挙げられる。

 例えば前述のミュージカル『SHOCK』シリーズは、元々はジャニーズ事務所の社長であるジャニー喜多川氏の原案から生まれた演目だが、成長とともに堂本自身のアイデアを加味してブラッシュアップを重ねていき、05年にはストーリーから選曲・演出まで根こそぎ一新。その後も、時にはジャニー氏の強い反対を押し切って、より現代的に、より広い客層に受け入れられるものへと少しずつ姿を変えて今に至る。情報過多で目の肥えた現代の観客は、「今年はどんな新しいものを見せてくるのだろう」と期待して彼の舞台に足を運ぶ。あまたのステージを観てセンスを磨いてきた堂本の才能が、演者としてだけでなくクリエイターとしても高く評価されているのだ。

 また、ソロアーティストとしての音楽活動に対する評価も高い。自作曲でアルバムを構成することのできる作曲能力、そしてステージの演出能力。やり出したら徹底して凝らずにいられない性分の彼は、ミュージックビデオやライブDVDの制作にも携わり、ソロ活動を自ら総合的にプロデュース。世界最先端の照明技術を導入したりなど彼のソロコンサートのクオリティーは毎回話題で、そこで使われた演出が後のち他のアーティストのライブで定番化していく例も多い。「ジャニーズ好きでなくとも一度は観ておくべき」と言われるゆえんだ。

 でありながら、彼のインタビューをしてみると、ことさら頑固な職人気質というわけでもないのが分かる。よく彼の口から語られるのは「予算や会場の都合」だ。理想の演出が山ほど浮かんだとしても、現実問題、それらを全て形にするのは難しい。ならば代わりに何ができるか。どこを譲るか、現実とどう折り合いをつけるのか。それを考えるためには専門スタッフらの知恵が不可欠であり、熱いクリエイター魂を媒体として、おのずとチームワークも生まれる。

 「思うに任せない限られた条件の中で、そのつど最善の策を考える。その中から、もしかしたら最初の理想以上のアイデアが生まれる可能性だってある。その作業こそがものをつくるということ」と彼は言う。これは芸能界やエンターテインメント業界に限らず、仕事をする人なら誰しもに共通することなのではないだろうか。

 

 人気の理由2つ目は、決して嘘をつかない人柄だ。夢を売るのが使命というアイドル業の性質上、往々にして彼らは本音を言えない立場に置かれる。が、堂本は徹底して正直。正直に言えないことがある場合は、ためらいなく黙秘権を使う。

 取材する記者の側からすると多少大げさに“盛って”話してくれるタレントのほうが、刺激的で目を引く記事を作りやすいため助かるし、当人にとってもそのほうが得なわけだが、彼はそういったリップサービスを一切しない。己の心情に過不足ない言葉だけを慎重に選び、コメントをそこにとどめる。たとえそれによってインタビューの場が気まずい空気になろうともだ。しかしその姿勢を貫いたことが結局、彼を“信用できる人間”と目されるまでにした。

 堂本の言動には長年にわたってブレない一貫性があることを、継続的に見ているファンや記者たちはよく知っている。だからこそ彼が語る言葉に、人は耳を貸すのだ。

 ブレないことと、変わらないこととは違う。『SHOCK』をはじめとするソロワークの変遷には、恐れず挑戦・改革を続けてきた彼の“攻め”の仕事ぶりが全て反映されている。ジャニーズというメジャーな環境で常にプレッシャーに追いかけられながら、表に裏に、ものづくりを繰り返してきたトップランナー。実年齢は37歳を迎えたが、「王子の中の王子」の呼称を奪われる日はまだまだ遠そうだ。

文/上甲薫

 

 

上甲薫(じょうこう・かおる) フリーライター。芸能界の表舞台に立つタレントから裏方のクリエイターまで、多数の取材を重ね、執筆。なかでもジャニーズや東方神起など、ボーイズグループの記事はファンから絶大な支持を得ている。月刊誌『日経エンタテインメント!』にて堂本光一の連載も担当。堂本が仕事観を明かした同連載『エンタテイナーの条件』(日経BP社)は2月に書籍化された。

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